4度の離婚経験を持つ円満離婚弁護士、原口未緒先生に夫婦問題に悩む皆さんの相談に答えていただきます。弁護士としてだけでなくカウンセラーとしても活躍する未緒先生だからこその視点で相談者さんへ寄り添います。第二回は夫から暴力をふるわれているけど離婚はしたくない。暴力をふるうのはよくないことだと分からせたいという妻からのご相談です。
相談:機嫌が悪くなると暴力をふるう夫にどうしたら暴力の罪の重さを分からせることができますか?
夫は喧嘩になると、「離婚しろ」とか「お前が俺のストレスの根源だ」、「家に帰って来るのが億劫になる」など、ひどいことを言います。
散々腹の立つことを言った挙げ句、家を飛び出そうとするので止めると、たいてい突き飛ばされ、それ以上引き止めると殴る、蹴る、家の中の物を壊すなどの行動に出ます。何度も心身共に傷つけられることが繰り返されると、離婚した方がいいかと考えたこともあり、今でも心のどこかに不安があります。
でも、おかしいと思うかもしれませんが、本当は離婚したくないんです。一生一緒にいようと決心し、夫の優しさを信じて結婚したので、離婚という選択肢は選びたくありません。
夫は腹が立つと、心にもないことを口にするところがあります。私に悪いところがあるのは明らかですし、私が直そうと努力して、気分を悪くさせるような言い方に気をつけていれば、暴力に至ることはありません。
ただ、そうやっていつも気をつけていなければならないのは、やはり少し疲れてしまいます。
どんな夫婦でもお互いに多少の気遣いは必要だとは思いますが…。夫に望むことはただ一つ、どんな理由があっても女性に暴力を振るうことは絶対にしてはいけないと強く自覚し、二度としないでほしいのです。それさえなければ、普段とても優しい夫なんです。
おそらく、私がその優しさに慣れ、感謝の言葉を忘れたり、感謝の気持ちを持たなくなったりすると、夫のイライラが募り、いつもそういった喧嘩になっているのだと思います。どうすれば、夫は暴力の罪の重さを理解してくれるのでしょうか…。
未緒弁護士の回答:「私が悪い」と考える思考のクセを止める
相談者さん、とてもお辛い状況ですね。いただいたご相談はとても難しい問題だと思います。
その上で私が申し上げたいのは、まず相談者さん自身が、「私が悪い」「私がいけない」「私が〇〇を直せば」と考える思考のクセを改善することから始めていただきたいということです。
人は皆、欠点や弱点があります。それが人間らしさでもあります。非の打ちどころのない完璧な人間など存在しません。ですので、まずは相談者さんが、自分を「悪い」「いけない」「なんとかしなければ」と思うクセをやめてみてください。
未緒弁護士の回答:自身の弱さを受け入れて、ご主人の承認欲求を満たす
ご主人がひどいことを言ってきた場合には、それが彼なりの一種の愛情表現なのだ、と捉えてみてください。
その上で、彼が悪態をついたり、ひどいことを言ったり、イライラしたり、さらには家を飛び出そうとした時に、あまりオロオロしないでください。
そして、ご主人からあなたの非を指摘された場合には、『そうね…私、どんくさいよね…いつもごめんね』といった具合に、自分の弱さを受け入れてしまってはいかがでしょうか?
その上で、『あなたがしっかりしてくれているから本当に助かるわ』とか、『私がどんくさいから、あなたと結婚したのよ』と言ってみてください。男性は、女性に認められたり、褒められたりしたいという欲求があります。そういった承認欲求を、相談者さんが言葉にして伝えることで満たすことができるかもしれません。
未緒弁護士の回答:あなたが大切に思う人の妻なのですから大切にされて当然
一番重要なのは、相談者さんが「ご主人を愛している」という明確な気持ちです。そして、「ご主人の優しさを信じて結婚した」ということだと思います。
あんなに優しかった人が、なぜ暴力という酷い行動をするのか?そこにはきっと、彼の内なる痛みが隠れているはずです。その痛みに寄り添うことができるとよいのですが、まずは相談者さん自身が、自分の痛みをきちんと受け入れる必要があります。
それが、「私が悪いから」「足りないから」「いけないから」と思わないということです。
「私は正当に扱われるべき存在だ」「大切にされるべき存在なのだ」と認識してください。
そして、ご主人を暴力に駆り立てるものは何なのか、彼は何に苦しんでいるのかを考えることができると、関係性が変わるかもしれません。
くれぐれも重要なのは、自分を大切に扱うということです。これができないと、相手もまた、あなたを不当に扱ってよいと誤解してしまいます。
あなたは、大切なご主人の妻です。あなたが大切に思う人の妻なのですから、大切にされて当然なのです。その立ち位置をしっかりと心に刻んでください。
未緒弁護士の回答:逮捕・処罰されることで初めて悪いことだと気が付くことも
最後に弁護士として法律的な観点からアドバイスさせていただきます。
法律的には、暴力は犯罪であり逮捕や処罰の対象となります。あまりにひどい暴力の場合は迷わず110番通報をして警察に助けを求めてください。
逮捕や処罰をされるということでご主人は初めて、社会的にも一般的にも自分はしてはいけないことをしているのだ、という認識が生まれる可能性があります。
過去に夫がひどいDVを行っていた案件に携わりましたが、その時がそうでした。
夫自身の両親もDVをしていて、ご自身も親から暴力を受けて育っていたため暴力がいけないことだという認識すらなくなっていたようでした。
逮捕・処罰されることで、ようやく世間的にいけないことなのだ、という認識が持てたようです。
DVは相談機関もたくさんあり専門的に取り扱っているところも多くありますので一人で抱え込まずに、ぜひ、行政の支援や、支援団体の支援を受けてください。
DVからの脱却は根深く、専門機関による支援を受けないと、脱却が難しいのが現実です。
もし、本当に暴力のないご夫婦に戻りたいのであれば、専門機関へご相談することをお勧めします。
また、身体的なDVは明確な証拠が残りやすいため、明確な離婚理由となります。そのため、離婚をして関係を断つということは、しやすい案件ということができます。ご自身がどうされたいか、ということを今一度、考えて適切な行動をとっていただければと思います。