ライフスタイル

チェーン店をなるべく避けよう

むかしむかし、10代で島根の山奥から大阪に出てきた頃、「街にあるレストランやカフェやバーは、なんて都会的なんだ!」とかわいく感動していました。
お山にはないきらびやかな空間、初めて見るメニュー、聞いたことのないカクテル、イケメンの店員……。

こうなったら大阪にあるお店にぜんぶ行ってみたい! と田舎の少女が思っても不思議ではありません。
そして、お店を制覇した証しにと、少女がやってしまったこと。
それは、「マッチ集め」。

ああ恥ずかしい。
思い出すだけで赤面してしまいますが、恥を忍んで告白します。

たばこも吸わないし、灯油ストーブも持っていないのでマッチなんかまったくもって不必要な少女が集めた、がらくたマッチ箱。
「こんなにも都会のお店を知ってるのよ。
なんて都会派な私なの……うっとり」という幼い征服欲からでした。

何百個あったか。
1000個は超えていたかもしれません。

集め始めると、マッチがまるで宝石のように思えてきて、いろんな種類が欲しくなり、ひとつのお店に何度も行くという行為をしなくなりました。

評判が悪かろうが、店構えがみすぼらしかろうが、店員がブサイクだろうが、「行ったことのないお店のマッチが欲しい!」という思いのみに突き動かされていたので、どんなお店にもズンズン入店。

でもこのおかげで、世の中にはお店と人のタイプがあって、だいたい似たような人種が自分の居心地の良いお店に集まるものだと、五感で感じ取ることができるようになりました。

大阪にかぎらず、神戸から京都まで、情報誌に掲載されたお店はほぼ全制覇。
そのうえで、オーラのない無名のお店にも興味津々で入店しまくりました。

今でもよく覚えているのが、大阪南部のアーケード街にあった喫茶店。
路上生活者のおっちゃんがたくさんいて、商店街自体におしっこの香りがただよっていました。

たしか、友達のバレーボールの試合か何かの応援帰り。
たまたま通りかかった道でした。
「なんだ、この雰囲気は……」と思いながらも、ジュースが飲みたいと思っていた私は、「そこの喫茶に入ろう」と友達の腕を引っ張ったのです。

「えー! ここで? 難波まで地下鉄で移動してからにせえへん?」と友達。

「マッチが欲しいから」と説得力のない理由で誘い込む私。

かくして、暗い、薄汚れた看板の喫茶店に入り、ミックスジュースとクリームソーダを注文。
なぜそこまで覚えているかというと、当時若かったためか、ミックスジュースとクリームソーダしか頼んだことがないのでした。

そのお店のお客さんたちは、もう、すごく、臭かった……。
しかも、うら若き私たちふたりの少女を、なめ回すように見つめるのです。

こわかった。
ひたすらこわかった。

客のおっちゃんたちは皆、腹巻きをしていたと思います。
暑いのに。
パンチパーマで、うなじと腕に黒い刺青が入っている方もいらっしゃいました。

私たちは飲み物をソッコーで飲み干し、いそいそとレジへ。
そして、「マッチありますか……?」とひと言。

まさにデンジャラスゾーンでしたが、こういう思い出も振り返るといい人生経験です。

この頃のマッチ集めの気持ちは大人になってからも失せることなく、今でもお店のリピート率はきわめて低いままです。

もちろん、お気に入りのお店はありますが、やはり行ったことのないお店をわざわざ探して予約してしまいます。

特に、チェーン店にはなるべく行かないことにしています。

それはなぜか? 決してマッチ集めのためではなく、感動したいからです。
都会のお店に感動して、「大阪のお店を制覇したい!」と思ったのとまったく同じ理由です。

私たちの日々の営みのなかで「食」は、いつでもささやかな「驚き」や「喜び」「満足感」を与えてくれる数少ないエンターテインメントであり、感動の宝庫ではないでしょうか。